――「君は放課後インソムニア」にご参加された経緯をお聞かせください。
自分はライデンフィルムでずっと演出家としてやってきたのですが、ある日プロデューサーの佐々木さんにいきなり「ご飯行こうよ」と誘われまして、そのときにとんかつを食べたんですけど……。
――食べたものまで覚えてらっしゃるんですね。
鮮明に覚えています(笑)。で、食べ終わった後に佐々木さんがバッグからごそごそと何かを取り出してきて、「実は監督をやってほしいんです」という話をされまして、そのときに初めて原作のことも知りました。
――原作に対する第一印象はどのようなものでしたか?
まず、表紙からにじみ出るような雰囲気のよさがひしひしと伝わってきまして、最初はペラペラと「どんな感じかな」と見ていたんですけど、とにかくオジロ(マコト)先生の描く絵の魅力が全面的に出されていて、止まっているはずなのに、そこに時間があるような。そこに動きが見えてくるような描き方がとても印象的な作品だなと思いました。
――池田監督にとってはこれが初監督作品になりますが、その点での意気込みやプレッシャーは感じられましたか?
もちろん演出家をやっていくうえで、いつかは監督をやりたいなと思っていたのが、わりと早く来たなという印象ではあったので、個人的には演出の延長線上で気張らずに頑張りたいなと思ったんですけど、この原作を見ると「どうしたものか……?」と悩むことも多くて。そういう意味では最初からハードルの高い作品なのかなと。
――先ほど原作に関して「そこに時間があるような」作品だとおっしゃっていましたが、映像になるとその時間を実際に表現しないといけないというのはありますよね。
アニメに関しては編集という、一本のフィルムにつなげたときに尺を伸ばしたり縮めたりする工程があるんですけど、ほかの作品で演出をやっていたときはバツバツ切ることでテンポをよくしたりしていたのが、この作品は間を入れて伸ばすことが結構あるなという印象が強くて。それこそ原作からにじみ出る時間の流れをフィルムとして起こして、そこに無言の間があったとしても、ただ何もしゃべっていないだけの間じゃなくて、この二人の距離感を表す間になるように。それがうまくできているかどうかはちょっとわからないですけど、気にしてやっているところではあります。
――また、池田監督はこの作品の舞台である石川県のご出身ですが、これはたまたまだったのでしょうか?
聞いた話によると、たまたまだということでした。一応、原作をもらって、監督をお願いするつもりだというお話をいただいた後に「実はこれ、石川県の話なんだよね」と言われたので……。
(同席していた佐々木プロデューサー)出身地で監督を選んでいるわけではないです(笑)。
――でも、ご自身が出身地の作品で監督ができるというのはうれしいことですよね?
実はアニメ演出家になって、監督ができるようになったとしたら、ゆくゆくは地元の作品をやってみたいなという思いがあって。それこそ他作品のタイトルを出して申し訳ないですけど、「花咲くいろは」とかは石川県が舞台の作品で、石川県を全面的に推してPRもされていますし、そういう地元ならではのものに取り組めたらなというのは夢のひとつではあったので、それがいちばん最初に来ちゃったなと(笑)。
――池田監督が思う、地元・石川県の魅力とは?
オジロ先生も言っていましたが、海が近くにあったりとか、反対側に行けばすぐ山があったりとかっていうのは石川県ならではの特徴かなと思っています。自分は石川でも金沢のほうの出身ではあるんですけど、七尾のほうは食祭市場とかは行ったことがあって、特に海にはかなり近い感じでしたね。自分が子供の頃に育った金沢でも友達と炎天下のなか海に行ったりとか、山でキャンプに行ったりとか、そういうことはしてきたので、その小さいときの経験を脳裏に浮かべながらこの作品を作ると、よりリアリティが増すのかなという感じはしてたので、地元出身のメリットはあったのかなという印象です。
――金沢の星空もきれいでしたか?
自分は活発なほうの男の子だったので、星空がどうのとかいうのは小さいときは気にしていなかったですね(笑)。この作品をやるようになってからは金沢に帰る機会が何度かあったんですけど、友達と地元のキャンプ場に行ったときにきれいな星空が見えたりしていたので、星空を撮るという意味では石川県はすごくいいところなのかなと思いました。
――連載中の原作をTVアニメとして構成するうえで、シリーズ構成の池田臨太郎さんとはどのようなお話をされましたか?
今回は初めての監督ということもあったので、臨太郎さんにお任せする部分が結構ありまして、そこはもう大船に乗った気持ちだったかと思います。自分は臨太郎さんが組んでくれたものに対して「絵にするならこういうふうにしたいな」みたいな、ちょっとした構成の組み換えを少しずつやっていく印象ではありました。で、自分は最初、次の話数が見たくなるような終わり方でもいいのかなと思っていたんですけど、臨太郎さんとの話で1話1話が満足のいく終わり方というか、見終わったときに「この回もよかったな」と思えるような構成の仕方にしていくことになって、結果よかったなと思いましたね。
――もちろん次の話数が見たくなるようにするのも、ひとつのやり方ではありますが。
この作品としては、そうじゃなかったなと。(このインタビューが公開される時点で)5話まで見ていただいているのであれば、1本1本がそういうふうな終わり方になっていると思いますので、その辺りはちょっと意識してやりました。
――原作のオジロマコト先生が描かれるキャラクターの魅力は、どんなところにあると思われますか?
表情ですかね、やっぱり。そのキャラクターが何を考えているのか、言葉ではなく表情で描かれている部分が多いなという印象ではあるので、そこはアニメでも言葉を入れずに、しっかりとオジロ先生の表情を拾って再現したいなというところではあるかなと思います。特にアニメをやっていて印象的だったのは、丸太は全然笑わないんですよね。日常的に過ごしている分には口角が上がったりはするんですけど、原作を見ていると丸太が歯を出してニコッと笑うときは特別なシーンが多くて、そこはオジロ先生の中では計算されていて、丸太は笑わないキャラというのがひとつ確立されているのかなと。そこをアニメに起こすときに丸太を笑顔にしてきたりする人もいるんですけど、「できるだけ口角を上げないでください」というような修正はちらほらやったかなという印象です。
――逆に伊咲は表情豊かに描けるキャラクターでしたか?
そうですね。それも原作準拠ではありますけれども、どちらかというと伊咲は幼いときに入院していたというのもあって、学生生活で特別なことをしたいというのが原作を読んでいても伝わってくるので、深夜テンションじゃないですけど、イベントごとに対して楽しく取り組んでいこうという思いを出していけたらと思って、表情もつけたりしています。
――丸太と伊咲のほかにもアニメで動かしてみて面白かったキャラクターはいますか?
個人的には白丸かな。自分がいちばん好きなキャラクターが白丸なので(笑)。白丸自体は内気なところもあるんですけど、人間関係で慣れれば慣れるほど表情豊かになっていくとか、距離感が縮まっていくみたいなところは描いている側も面白くて、特にオジロ先生は原作のなかでも白丸では遊んでいるなという印象がありますね。5話までだとそんなにいっぱい白丸が出てくるわけではないですけど、丸太との距離感で白丸が面白く動いてくるのはそれこそ5話、6話以降かなという感じはするので、そういうところも見てもらえるとありがたいかなと思います。
――キャストさんたちの声やお芝居に関しての印象もお聞かせください。
今回、主役の二人はオーディションで選ばせていただいて、ほかの人たちに関しては名指しでこちらからオファーしたという形になっています。オーディションを受けた二人の印象では、丸太役の佐藤(元)さんはもともと原作を知っていたらしくて、それもあってオーディションのときからキャラクターを作り上げてきているなと聴いていて思いました。そのときはちょっとやさぐれた感じの丸太ではあったので、丸太自体はやさぐれているんじゃなくて、真面目なんだけど不眠症でイライラしているんだというところを強調して、直していくような形になったかなと思います。でも、お芝居の完成度がとても高くて、ほぼ言うことがないような形ではありましたね。伊咲役の田村(好)さんは皆さんから見てもかなりの新人さんを起用したなという印象になったかなと思うんですけど、オーディションのときの状況を説明すると、テープオーディションを先にやって、その後にスタジオで来ていただいたときに、ブース内に田村さんがいて「伊咲が星を見上げて、感動している」みたいなシーンで、本当にそこに星があるような芝居をしてくれて、それが印象に残ったんです。そのうえで、今回はアニメアニメしている感じではなく、ちょっと実写寄りのニュアンスも残したいなと思ったので、田村さんの持つ生々しい高校生らしさが刺さるんじゃないかなと思って、この二つが個人的には決め手になって選ばせていただいた感じになりますね。ほかのキャラクターは名指しでキャスティングされた関係上、だいたいの声のニュアンスは想像できたんですけど、最初のテストで聴いた瞬間から「このままでもいけるかも」くらいの完成度の高さで皆さんやってくれていて、調整することもほとんどなかったかなと思います。ただ、白丸が最初ちょっとかわいらしくやってこられたんですけど、そこは「もうちょっとクールに落としてください」とこちらが言うだけで修正されて、今の白丸の形に落ち着いたので、さすがプロだなという印象でしたね。
――ちなみに倉敷先生役の能登麻美子さんも石川県出身ですが、こちらもたまたまキャスティングされたのでしょうか……?
たまたまかと言われれば、そうでもないかなという話ではあるんですけど(笑)、もともとこの作品をやるうえでどこかには入れたいよねという話をちらほら耳にはしていて、適役があるじゃないかというのでハマった感じではありますね。
――ここまでアニメをご覧になられてきた方、もしくはこれから見てみようという方に向けて、特にここを見てほしいというポイントはありますか?
ちょっとこだわった部分としては、原作だとコマの数的には少ない撮影のシーンとかはアニメではリアリティのあるように調整をさせていただいて、それこそこのアニメをきっかけに星空写真を撮ってみようかなとか、一眼レフは興味なかったけどカメラを買ってみようかなという人が多少でも増えるといいのかなというのは思ったので、自分も浅はかな知識で調べつつではあるんですけど、特にこだわってやらせていただいたところではありますね。それと、原作はもちろん漫画なので白黒で本編が描かれていますけど、そこに色をつけるという意味で「夕方から夜にかけて」とか「夜から朝になる瞬間」とか、そういうちょっと変わった時間帯はほかのアニメよりも多く見られるんじゃないかなという気がしていて、その絶妙なところを美術さんに無理矢理「こういう感じに」みたいな感じで指示していたりするので、ひとつ魅力として見ていただけたらありがたいかなと思います。
――たしかにアニメでそこまで背景の色にこだわることは少ないかもしれないですね。
それこそ「朝」「昼」「夕方」「夜」とかはよく見かけるとは思うんですけど、この作品は夜の時間帯が多い作品になっているので。オジロ先生もたしかインタビューか何かで漫画のコマを暗く落とさなかった理由に「明るい夜を再現してみました」みたいなことを言っていた気がするので、それもちょっと頭に入っていて。今までの話数でも特別なシーンに関しては「夜なのかな?」と思うくらい明るめに作って、キャラクターを動かしたりしていたかなと思うので、そういう特別感も見ていただけるとありがたいですね。
――では最後に、「君は放課後インソムニア」を応援してくれているファンに向けてメッセージをお願いします。
よくある言い方かもしれないですけど、原作ファンでも、アニメから見始めた人でも、しっかりと作品の魅力をお届けできるように自分たちは頑張っているので、そこを見ていただければというところと、後半もっとこの二人の距離が近づいていくかなと思いますので、そこも楽しんでもらえるとありがたいなと思っています。
次回:音楽・林ゆうき