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スタッフインタビュー第1弾:シリーズ構成・脚本/池田臨太郎さんインタビュー

■念頭に置いていたのは「いかに心地よく終われるか」

 

――「君は放課後インソムニア」にご参加された経緯をお聞かせください。

ライデンフィルムの佐々木プロデューサーに声を掛けてもらいました。作品として広い世代をターゲットにしているなかで、特に十代から二十代の若い子に刺さるような作品にしたいという企画意図があったみたいで、若手の感性が欲しかったらしくて。そのとき僕はまだ駆け出しだったので、若いという意味で起用されたんじゃないかなと思っています。

 

――その時点で原作漫画はご存知でしたか?

声を掛けてもらったときに、初めて読みました。

 

――原作を読まれての感想はいかがでしたか?

不思議な作品だなと思いました。ボーイ・ミーツ・ガールものではあるんですけど、そんなに恋敵登場!みたいな大事件もないのに、読んでいてすごく楽しくて。引きとかも強くあるわけじゃないのに、次も読ませるという。あと、読んでいてニヤニヤしました(笑)。

 

――ニヤニヤはしますよね。

だから、アニメにするのが難しいだろうなと思いつつ、アニメにしがいのある作品だなと思って読んでいましたね。

 

――アニメ化するうえで、原作サイドとどのようなお話をされましたか?

まず、顔合わせのときに作品で大事にしているポイントをうかがって、キーワードでいっぱいいただけたので、そのおかげでスムーズに構成を組めました。ポイントというのは、見終わった後の心地よさだとか、温かみ、作品の優しい空気感や世界観を大事にしてほしいということで。あとは、モノローグはなるべく少なめで、表情で見せるという、具体的な内容も出ていましたね。

 

――各話の構成で、次回への引きを作ることは意識されましたか?

引きは一切意識しませんでした。むしろ引きを作るほうが作品のトーンと合わないというか、基本的に念頭に置いていたのは「いかに心地よく終われるか」というところで。引きを作って続きが見たくなる気持ちはわかるんですけど、そうすると心地よさとはかけ離れてしまうと思うので。最近の全体的なアニメの作風とは逆行するんですけど……。

 

――全13話の構成で悩まれた部分はありましたか?

本当に順調に進んで、全然悩まなかったです。シリーズ構成で言うと、12話から13話に増えたのがめちゃくちゃ助かりました。もともと12話でやる予定だったのが、ちょっと12話だと窮屈だなと。入れられはしたんですけど、窮屈だなというので、どうしてもあと1話欲しいと交渉して、OKもらえて。それで13話になったおかげで、僕的に構成がバシッと決まったんですよ。なので、もし「構成がよかった」という評価をもらえたのであれば、それは1話増やす決断をしてくださったプロデューサーさん方の功績です。

 

――池田ユウキ監督とお話しされたことはありましたか?

監督とは構成の話もガッツリしましたね。最初に監督が構成案をざっくり書いてきて、いろいろ意見を交わしたりするなかで、こちらから逆に質問というか、作品のトーンをどうするかというところをきっちり確認しました。「ドタバタラブコメにする」とか言い出したら全力で止めたんですけど(笑)、そこは共通認識で、リアル寄りの演出で行くということだったので大丈夫でした。

 

――あえてドタバタラブコメにすることもできなくはないのでしょうけど……。

それはちょっと解釈を間違えているなあとなってしまうので。あと、間をたっぷり取りたいのでシナリオの枚数も少なめでというところも予め言われました。特に5話ですかね。臨海学校に行く回。あの回がシナリオの内容もページ数もめちゃくちゃ少ないんですけど、監督的に「いや、大丈夫」という保証をもらったので、それに乗っかりました。

 

――脚本執筆のためにカメラや天文関連の資料を集めたりはされましたか?

星の撮影の本を買いました。丸太が倉敷先生からもらっていたのと同じ本(笑)。あとは一眼のカメラをもともと持っていたので、ちょっと近くの公園で星空の撮影に挑戦してみましたが、うまく撮れませんでしたね。都会だと星はあまりくっきり撮れないです。

 

――実体験されたことで丸太の気持ちに近づくことができた?

でも、星空撮影に行くのって夜じゃないですか。山奥じゃないにしても、街灯とかないところに行かないといけないわけで、そこまでひとりで行って、撮影して、待っている間がめちゃくちゃ怖くて。茂みから誰か出てきて襲われたらどうなるのかな?みたいなことを考えていたんですけど、白丸先輩なんてひとりで七尾城址公園にズンズン登って進んでいくから「白丸先輩、めっちゃ強えな!」ってなりました(笑)。丸太も普通にひとりで深夜徘徊して撮影とかしていますけど、じっと待っていると怖いんですよね、あれ。

 

――丸太や白丸が平気なのは若さゆえなんですかね?

怖いもの知らずなんですかね。あと、夢中になっているというのもあるのかもしれない。僕みたいに「どんな感じなのかな?」って、邪な気持ちで撮りに行っていなくて、ちゃんと「いい写真を撮るんだ」という思いでやっているからなのかもしれないですね。

 

――作品の舞台となる石川県七尾市の取材はされましたか?

全然取材じゃないんですけど、勝手にひとりで旅行に行って、七尾を観光してきました。とりあえずアニメに出てくるところを一通り回って、お好み焼きの平野屋さんは美味しかったですし、あと、喫茶店の中央茶廊さんも行ったときに「君ソムのファンで……」みたいなことを言ったら、店主の方が複製原画とか見せてくれて(笑)。

 

――そこは関係者ではなくファンなんですね。

2、3年くらい前に行ったので「スタッフです」と言うわけにもいかなくて。でも、七尾はいい街でしたね。川が流れていて、海まで歩くと気持ちいいです。

 

 

■不眠の悩みがあるだけの、どこかにいる高校生の話

 

――丸太と伊咲の心情やドラマを描くうえで、どんなことに気をつけられましたか?

二人の心情の深いところまでちゃんと理解して、解釈が割れそうな、原作の描写で曖昧なところは担当編集の加納さんが毎回本読みに出られていたので、その都度聞いていました。「ここってどういうことなんでしょうか? 僕はこう思うんですけど……」みたいな感じで摺り合わせをしたりとか、本読みに参加されている皆さんの意見を聞いたりして。

 

――「僕はこう思うんですけど……」と聞いてみたら、思いもよらない答えが返ってきたということはありましたか?

意外となくて、「ちゃんと解釈できていたんだ」って、自画自賛しています(笑)。あと、気をつけたところは「不眠の悩みがあるだけの、どこかにいる15歳の男子高校生と女子高生の話」という意識を持っていたことですね。不眠症はたしかにつらいものですけど、1話の時点で不眠症がネガティブなものから「二人だけの秘密」という、ポジティブなものに変わっている気がしていて。だから、1話で二人が出会って以降、ことさら「不眠症はつらいんだ!」みたいなネガティブな面を別に強調しなくてもいいのかなと思っていました。

 

――二人が頑張って不眠症を克服しようというお話でもないですからね。

一応、今後の展開で「なぜ不眠症になったか」ということは描かれていくんだけど、不眠症がつらい二人の話ではないという。「15歳」というところも結構大事で、大人になると大したことに思えないような出来事でも、15歳の二人からしたら感情を揺さぶられたり、大きな悩みだったりすることってあると思うんですよね。だから、「二人は15歳なんだ」というところを常に意識して。僕は15歳に戻ることはできないんですけれど、15歳だったときの気持ちを思い出しながら、15歳の二人の心の動きを丁寧に追っていこうと決めて作業していました。

 

――二人以外で、脚本を書いていくなかで面白かったキャラクターはいましたか?

こういう質問が苦手というか、ここで特定のサブキャラを出すと「こいつ、贔屓してんじゃないのか?」とツッコまれそうな気がして名前を挙げるのになかなか勇気が要るんですけど……個人的に興味深かったキャラクターはカニちゃんですね。めっちゃギャルなのに頭いいし、勉強を頑張って丸太と張り合うところとか、意外性がすごくいいなって。だからカニちゃんが結構好きでしたけど、あまりシナリオではそういうのが出ないように気をつけました(笑)。でもやっぱり、丸太と伊咲がいちばん長く付き合ったキャラなので面白いですね。丸太は器用だけど不器用で、伊咲は芯が強いんだけど実は弱くて。複雑な性格を持っている二人だから、掘り下げていて楽しかったという記憶があります。

 

――逆に難しかったキャラクターはいましたか?

倉敷先生が難しかったですね。キャラのイメージとしては、ああいう「かっこいい大人女性」ってわりといるじゃないですか。ただ、ちょいちょいシナリオで原作にないセリフを足したりしているときに、口調がどうも倉敷先生っぽくならなくて。僕が書くと武将みたいな口調になっちゃうんですよ。男口調っぽいんだけど、どこか女性らしさのある柔らかい感じというのが、なかなかバランスが難しくてどうしようかな?となったときに、「うる星やつら」のサクラ先生の雰囲気が近いかなと思って見返したら、サクラ先生は「おぬし」とか「~じゃ」とか言っていて、思っていたよりも全然参考にならなくて(笑)。結局、原作を何回も読み返して、あと「富士山さんは思春期」でも倉敷先生が出てくるので、そちらも読んで、とにかく頭に叩き込んで、頑張って原作に合わせました。

 

――絶妙なバランスでセリフが成り立っているというのは、オジロマコト先生のセンスによるものでしょうか?

セリフのセンスは抜群です。オジロ先生のセリフはわりと普通っぽく聞こえるんだけど、意外とひねられているというか、セリフの癖があって。その辺りもセリフを足したりする作業のときとかに頑張りはしたんですけど、やっぱり難しかったですね。たぶんセリフにこだわりがある作品だと勝手に思っていて、原作を読むとわかるんですけど、漫画のセリフって「、」とか「。」とかをたいてい打たないのに、「君は放課後インソムニア」は「、」とか「。」がちゃんと入っているんですよ。それはきっと先生が書いたセリフを大切にしようという編集サイドの意図なんじゃないかなと勝手に解釈して、だからセリフはしっかりこだわろうとこっそり思って作業していました。

 

――セリフを足す作業をされるうえで、言葉を大切にされていたと。

「君ソム」の原作って、セリフの少ない作品じゃないですか。でも、アニメになるとコマとコマの間をつなぐシーンだったりとか、芝居を足したりとかでセリフがどうしても必要になってくるので調整したりする必要があるんですけど、そこのバランス加減が難しかったですね。足しすぎず、足さなさすぎずという。だから、原作はめっちゃ読み返しました。セリフ回しを習得するために。完璧に習得するのは無理なんですけど、なるべく違和感が出ないようにいうところで、再現度が高くなるように努力はしましたね。

 

――キャストさんたちの声やお芝居を聴かれての印象はいかがでしたか?

伊咲の声って、僕は頭のなかで流れていたんですよ。そのイメージに田村(好)さんがぴったりで、もう「伊咲だ!」という感じでオーディションのときから思っていて、初っ端のアフレコもよかったんですけれども、実は丸太のイメージが僕は全然なかったんです。オーディションのときも、誰を聴いてもあまりピンと来なくて、佐藤(元)さんに決まったときも僕は正直「これが丸太なのかな……?」みたいな感じで。でも、1話で丸太の声を聴いて、初めて丸太が僕の頭のなかで流れたなって。佐藤さんが本物の丸太だって思いました。

 

――最終話までの脚本の執筆を通して、改めて感じた作品の魅力はありますか?

最初は「こいつらめ!」みたいな感じでニヤニヤと眺めて楽しんでいたんですけど、キャラを深く理解することで、ニヤニヤだけじゃない、いろんな感情を揺さぶられる作品だなというのを改めて感じました。……何なんだろう? 言語化が難しいんですけど、共感というか、懐かしさみたいなものもあったり、時折せつなくなったりだとか、形容がしづらい感情を呼び起こさせるような、不思議な作品ですね。最初に戻りますけど。

 

――では最後に、「君は放課後インソムニア」を応援してくれているファンに向けてメッセージをお願いします。

何度も何度も原作を読み返して、じっくり考えて、作品の魅力が余すことなく伝わるような構成と脚本にしたつもりなので、楽しんでもらえるとうれしいです。

 


 

次回インタビュー:池田ユウキ監督

https://kimisomu-anime.com/news/post-staff02

 

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